カダフィ企画レッドデータブックス
第三回「ナガシ」

生命の歴史に初めて登場した生物は、「嫌気性生物」と呼ばれる生物でした。この嫌気性生物は遊離酸素の存在する環境では生存できませんが、当時の地球環境には遊離酸素がほとんど存在せず、生態系は彼ら嫌気性生物の天下でした。
しかし、この嫌気性生物の天下にも終わりが来る時が来ました。それは、「植物」の出現でした。植物は太陽光線をエネルギーにして光合成を行ない、遊離酸素を外部に放出します。最初のうちは海中の鉄分と酸素が化合して酸化鉄の形で海中から除去されていましたが、鉄分が消費されてくると環境中の酸素濃度が上昇し、嫌気性生物は深海や土中などの酸素の無い特殊環境下に追いやられ細々と生存する様になってしまいました。
これと同じ現象が、現代においても我々の身近において発生しているのです。

その現象は「ウタウタイ」という生物系統において発生しています。ウタウタイははるか昔、鎌倉時代の「ビワホウシ」という種に起源を持つと言われており、彼らの名前の由来ともなった「ビワ」という楽器を鳴らしながら「平家物語」という独特の歌曲を弾き語る「全国ツアーライブ」と呼ばれる活動は各地に近似種の発生を促し、江戸時代の古文書にも彼らの子孫と思しき者たちの活動記録が存在します。

昭和の時代に入ると、彼らは「ナガシ」という種に進化し、各地の繁華街を生息地としてその勢力を広げました。更にその進化種である「エンカカシュ」は当時の日本人の心情にマッチしたその歌詞ともあいまって絶大な人気を獲得し、「キタジマサブロウ」という種に至っては自力でブラキストン線を越えてはるか南下し、芸能界にその勢力圏を確立するまでに至ったのです。
このように「ナガシ」は繁栄を極め、その天下は永久に続くかと思われていました。しかし、嫌気性生物の場合と同様に、突如出現したある物が彼らの歴史に幕を下ろす事になってしまったのです。









それは、「カラオケ」の出現でした。









昭和40年代の後半に出現した「カラオケ」は、昭和50年代に入ると爆発的なブームを巻き起こし、瞬く間に国民文化の一部となりました。それと入れ替わるかのように、昭和53年頃を境に「ナガシ」の生息数が激減し、今や繁華街において「ナガシ」の姿を見る事はほとんど出来なくなり、もはや絶滅したものと考えられます。しかし、「ナガシ」は本当に絶滅してしまったのでしょうか?























答は、「ノー」です。
















現在、終電後の駅前広場や深夜のアーケード街においてアコースティックギターを鳴らす若者の姿が時折見受けられますが、実は彼らこそが「ナガシ」の末裔なのです。彼らは嫌気性生物の場合と同様に、脅威である「カラオケ」の存在しない特殊環境下において細々と、しかし着実に活動しているのです。現に、去年度の学会では「ゆず」という強力な新種の出現も報告されています。

彼ら「ナガシ」の末裔達がどのような道をたどるかは、今後の研究を待たなければなりません。
しかし、これだけは確実に言う事が出来ます。

「嫌気性生物は死に絶えなかった。」




「カダフィ企画レッドデータブックス第三回・ナガシ」






カダフィ企画の本・Vol.226「のほほ51」収録「生きものの記録」改題

退却〜っ!
表紙へ戻る。
inserted by FC2 system